木山仁・日本代表監督の全日本大会トップ選手分析~上田幹雄編
2016年10月30日
ゼッケン65番/上田幹雄(うえだ・みきお)
横浜北支部/弐段
身長187cm/体重91kg/21歳
◎主な戦績
2013年第30回全日本ウェイト制軽重量級優勝
2013年第45回全日本大会7位・技能賞・新人賞
2014年第46回全日本大会6位
2015年第11回世界大会6位
世界大会の翌年は選手の新陳代謝、いわゆる世代交代が起こるというジンクスがありますが、新時代の日本を背負うエース候補と注目されているのが昨年第11回世界大会で日本選手最高位の6位に入賞した上田幹雄選手です。
187cm、91kgの恵まれた体格はもとより、何といっても上田選手の武器は長い足を活かした蹴り技と、足腰のバネです。少年時代から空手と並行して相撲や柔道を経験して養われた足腰の強さがありながら、組手のスタイルは腰を落としてどっしり構えるのではなく、どちらかと言えば腰の位置は高めで軽くステップを踏みながら相手との間合いを探り、相手の攻撃が届かない距離から瞬発力を活かして一気に攻撃を仕掛けていくというのが、昨年の世界大会で見せた新しいスタイルでした。
また接近した間合いの攻防では、相手の死角を突いて上段膝蹴りをヒットさせるなど、自らの体格を熟知した上で少年部時代からのキャリアで培った彼なりの組手の法則があり、それが彼の代名詞でもある上段膝蹴りでの一本勝ちにつながったと言えます。
一昨年までの上田選手はその接近戦での攻防の中から上段膝蹴りで相手を倒すことを組手のセオリーとしていましたが、それだけでは同じ大型選手や強豪外国人選手に勝てないということを松井館長はじめ、我々も稽古の中で指摘し、彼なりに組手改革を試みた一つの成果が昨年の世界大会6位という結果になって表れました。20歳で世界6位というのは、考えればあのフランシスコ・フィリォ師範も初出場の第5回世界大会は20歳でベスト16でしたから、それだけでも凄いことなのですが、現代は20歳で世界チャンピオン(タリエル・ニコラシヴィリ)が誕生する時代ですから、彼にも当然そのレベルの活躍が要求されます。
また、今回のルール改定に関して、上田選手は6月の全日本ウェイト制大会には出場していないものの、総本部の合宿等の稽古に積極的に参加することで松井館長が目指すルール改定の本来の意義を早くから吸収し、さらなる組手改革に取り組んできました。彼自身「以前のルールではもう自分は勝てないのではないか。そう思うくらい新しく改定されたルールに馴染んでいる」と語っていましたが、それも大げさなリップサービスではなく、ごく自然に発せられた感想なのだと思います。考えてみれば、片手での押し、両拳での突き放し、足掛け、足払い、捌き、上段への蹴りのクリーンヒットなど、長い手足を自在に操る上田にとって有利なことばかりです。
それに加えて上田は全日本空手道連盟(全空連)の講習会に参加し、全空連の組手や形(型)のエッセンスを自分の中に採り入れています。上田の良い所は、総本部、東京城西支部、代表選手の強化稽古などあらゆる場に出向いて様々な長所を自分の空手に活かす吸収力にあります。そこに新たに全空連のスピードや技の正確さといった要素が加わり、一瞬の攻防の重要性を再認識したようです。その上田が1年ぶりの実戦でどのように変化し、進化しているのか、私も楽しみにしています。
上田選手は少年部時代から国際親善大会や全日本高校生大会を制しており、将来は極真空手を背負う逸材と高い注目を集めていました。その点が2歳年上の髙橋佑汰選手と比較される所以でもあり、9月の記者会見の際に彼ら二人が共に「決勝戦で戦いたい」と口にしたことは、非常に頼もしく感じました。新時代の旗手と言われる二人が、荒田昇毅選手や鎌田翔平選手に代表されるベテランや海外勢を相手にどんな戦いを見せるのか、大いに注目したいと思います。(日本代表監督/木山 仁)