松井館長の閑話休題

先日開催された「第31回全日本ウェイト制大会」では、関東地方が記録的な大雨に見舞われたにも関わらず多くの皆様に御来場いただき、無事に2日間の全日程を終了できたことは、偏に常日頃から我々の活動に賛同し、御協力くださる関係各位の皆様、また会員の皆様、そして株式会社SANKYO様はじめ御協賛各社の御支援の賜物であり、深く感謝する次第であります。

今年の全日本ウェイト制大会は、例年開催している大阪府立体育会館の改修工事にともない今回は東京での開催となったが、来年以降はこれまで通り大阪で開催する予定である。

さて、今大会は「世代闘争」ということが一つのテーマとして開催された大会であったが、内容的にも、また結果を見てもその通りになったのではないかと思う。

今年は極真会館創立50周年であると同時に創始者・大山倍達総裁が逝去され、我々が極真会館を引き継いで丸20年を迎える節目の年であるが、改めて思うことは大山総裁没後の新体制の下で入門し、育ってきた第2世代の選手達が活躍する時代になってきたということである。この状況は昨年の第30回全日本ウェイト制大会の頃から顕著に見受けられたことで、今年も特に10代の若い選手の活躍は目覚ましいものがあった。

各階級を見ていくと、まず重量級で優勝した鎌田翔平選手は技も切れていて、ある意味運もあったと思うが、運も実力のうちというからそういう意味も含めて今回は彼の実力が発揮されての結果だったとしたい。とはいえ、以前のように試合後半で急に動きが止まるという悪い傾向が今回は出なかったが、それが全面的にクリアされたという印象はまだない。今回の優勝を糧に、11月の全日本大会や世界大会を前にした試合では、安定して勝ち上がっていく姿をぜひとも期待したいと思う。

注目された上田幹雄選手は、結果は準優勝ではあるが、それ以上に課題が多く残ったように思う。あのままの組手では全日本大会や世界大会の優勝を争うというレベルでは通用しない。まず心・技・体ともに、根幹がしっかりしていないという印象を受ける。勝つ人間は、それにふさわしい組手をしなければいけないし、風格や品格がともなわなければならない。大相撲の横綱は風格も品格や威厳が求められるが、同様に極真空手においても大山総裁の言葉を借りれば「格調高い空手」が求められるのだ。

それに比べて、上田選手の組手はドタバタしていて落ち着きがない。さらに言えば、最後に腹を効かされて一本を取られるという負け方が良くない。これは中量級の決勝で敗れた加賀健弘選手にも言えることだが、決勝戦で下段や腹を効かされて負けるということは、決勝戦を戦うための充分な技量に達していないことの証明である。上段を蹴られて意識を断たれて倒されるのであれば仕方ないと思うが、腹や足を効かされて意識があるのに倒されるというのは、それは未熟であるという以外の何物でもない。

決勝戦を戦う上において、ダメージが蓄積されていないこと、決勝までの全試合を全力で戦い抜いて尚、決勝を戦うだけの体力を温存していること、これが勝つための必要最低限の条件になる。その上で、精神力や技術力が加わって心技体すべての面で相手より優れていた者が勝つのである。

その意味で上田選手や加賀選手に関しては、若さによる可能性は抜群に感じられるけれども、期待が大きい分だけ課題がクローズアップされたとも言える。彼らは全ての意味で青少年の域を脱していない。

軽重量級で優勝した高橋佑汰選手は17歳の高校3年生のときに中量級で優勝し、4年越しの挑戦で2階級制覇を達成した。ただ、中村昌永選手との決勝戦は延長戦で中村選手の攻撃を受けて一瞬テンションが落ちたように見えた場面があった。安定した実力を示すのであれば、そういう部分を完全に排除していかなければならない。逆に中村選手は序盤は悪くても尻上がりに調子を上げていくタイプだが、今後は年齢的なところも含めて、体力、スタミナ等のフィジカルの鍛え方を工夫し、技術的な向上をはかるべきではないかと思う。

高橋選手は昨年から10kg以上体重を上げて、あれだけの動きを見せて優勝したことは立派だし、世界大会での活躍にも期待が持てるが、体重も89kgとここまで大きくなれば、しっかり構えを安定させて無駄な動きを省き、要所で的確な動きができるように組手を改革していくべきではないかとも思う。約90㎏の選手の組手としてはマイナスの意味での軽い印象を受けた。

重い体をあれだけ動かそうと思えばどうしても多くのスタミナを使う。もちろん力、スタミナ、柔軟性、スピードなどを身に付けるために常にフィジカルは鍛え続けなければいけないが、今までは若さだけでそれらを強引に引っ張ってきたものが、年齢を重ねると次第にそれができなくなる。高橋選手は今21歳だということだが、鍛えて身に付けたフィジカルをいかに効率よく使うのかということを考えはじめる時期に来ているのではないかという気がする。

中量級の優勝者イゴール・ティトゥコフ選手は、ロシアでもベテランの部類に入る強豪で、外国人ではあるが優勝するにふさわしい落ち着きと貫禄を示した。その点で言えば、決勝で敗れた若い加賀選手とは対照的だったようにも感じた。派手ではないが堅実な組手で勝ち上がっていくタイプで、この階級では世界的に見てもトップ選手の一人に入る。最近の若いロシア選手に対して、我々は約10年以上前にロシア勢が上位に勝ち上がり始めたときほどの脅威は感じなくなっているが、ティトゥコフ選手はその当時の雰囲気やイメージを引き継ぎ、ロシアの若手の模範となる存在だと思う。

軽量級はベスト4を10代の選手が独占し、優勝した亀井元気選手をはじめ、高校生が3人入賞した。過去に高橋選手と上田選手が高校生で優勝しているが、亀井選手も少年部から空手を始め、力をつけてきている中での今大会での優勝だと思う。まだ技も体も完成されていないが、今後の期待もこめて楽しみな選手だと言える。

ただし、亀井選手に限らず10代で活躍している選手の大半は、少年部で小さい頃から何試合も経験してきた中で出来あがった組手の勝ちパターンであるから、無差別の全日本や世界大会などさらに高いレベルで通用させるためには、高い意識を持って脱皮させなければいけない。高校生といえばまさに少年部の組手から成人の組手に脱皮をはかる最中になると思うし、そういう意味で言えば上田選手や加賀選手は脱皮する中で模索しているとも言える。ぜひ高い志を持って、「物事を俯瞰して自分自身を客観視する」能力を養い、「現実逃避せずに、責任転嫁せず」に物事にあたることで、心技体すべての面で立派な成人に脱皮してほしいと思う。

10代の選手は、総じて伸び伸びと戦っていて素晴らしいと思う。伸び伸びと戦うことは若さの特権だが、彼らも将来は全日本チャンピオンや世界チャンピオンを目指しているのであれば、品格や風格のある空手を心がけてほしい。試合場でのたたずまい、舞台に上がり、礼をする際の仕草、勝ち負けを宣告されて舞台を降りる際の仕草や態度など、試合の本番同様に気を抜くことなく武道空手にふさわしい態度を常に意識してもらいたい。それが後輩達や少年部の生徒の模範にもなるのだから。

さて、今年11月に開催される第46回全日本大会は、来年行われる第11回世界大会の日本代表選抜戦になる。昨年の優勝者・安島喬平選手、今大会で優勝した鎌田選手や高橋選手、世界ウェイト制優勝者の森善十朗選手や小沼隆一選手、そして昨年は怪我で欠場した荒田昇毅選手もしっかり調整して出場してくることだろう。その中に上田選手や加賀選手をはじめ、高校生の選手など新鋭達がどういう戦いを挑み、勝ち上がっていくのか。ここでもまた激しい「世代闘争」が繰り広げられることになるだろうし、日本のトップ選手が勢ぞろいして無差別で1人のチャンピオンを決める戦いになるのだから、私自身、非常に楽しみであるし、選手達はそのことを自覚して半年間しっかりと稽古を積んでほしいと思う。

国際空手道連盟 極真会館
館長 松井章圭